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使用者は、年齢、学歴、能力などが同一である二人の労働者を正社員として雇用する場合でも、その二人の賃金を一人は二○万円、一人は一九万円というように格差をつけて設定しても、合意が成立すれば違法にはなりません。
しかし、それでは大多数の労働者を雇用する企業では、良好な企業秩序、労使の信頼関係を築くことが難しくなります。
そのため実務では、就業規則に画一的・統一的労働条件を定めて平等基準を設定し、その内容で労働契約を設定する方法を採用しています。
労働条件の格差と同一労働・同一賃金の原則同一労働を行う労働者に対して、同一賃金を支払わなければならないかという点については、明確にそのような原則はないといえます。
すなわち、「契約の自由の原則と労働契約」で説明したように、契約内容である賃金は、当事者の意思で自由に設定することができます。
労働契約も一種の取引契約ですから、需要と供給の鋪ハランスの中で労務提供に対する賃金が影響を受けるのは当然のことといえます。
しかし、この原則を正社員に適用しないのは、労務管理上の理由によるといえます。
したがって、A集団とB集団というように少数の区分であれば、同一労働、別賃金という手法も採用できることになります。
この方法が、正社員と期間雇用者という雇用形態別の労働条件設定方法です。
この場合、たとえ正社員と期間雇用者が同一労働を提供しても、賃金に格差を設けることができ、違法にはなりません。
これが雇用社会における契約の自由の典型的な例といえるこの契約の自由の原則を修正できるのは、実定法上の条文だけといえます。
今日、同一労働の場合に、異なる賃金の設定を許さないとする法律は、労働基準法第三条「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」労働基準法第四条「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱をしてはならない」労働組合法第七条第一号「(使用者は)労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱をすること」をしてはならないという三つの条文だけです。
そして、正社員なのか期間雇用者や。
パートタイマーなのかという労働契約上の地位は、あくまでも当事者の意思により設定されるものですから、生来的なものにせよ、後天的なものにせよ、自己の意思によって逃れることのできない社会的な分類を意味する労働基準法第三条の「社会的身分」には該当しないといえます。
ですから、現行法上は、同一労働であるにもかかわらず、正社員と期間雇用者やパートタイマーという雇用形態の違いによって賃金に格差をつけても違法にはなりません。
この点に関し、行政指導は、パートタイマーの時間当たり賃金を、当該事業場に勤務する同職種、同作業、同経験で、かつ勤務時間の同じ一般従業員と同一にするように助言・指導しています。
また、ハートタィム労働法にもとづく指針は、短時間労働者の月例賃金・賞与・退職金を、その就業実態、通常の労働者との均衡などを考慮して定めること、福利厚生施設についても通常の労働者と同様の取扱いをすることを推奨しています。
この方針は、IOを中心とした世界各国における、「パートタイマーは『労働時間が短い』というだけで、すべての労働条件に対し同種の労働者との比例的平等の原則をできるかぎり貫徹すべきだ」というスタンスに歩調を合わせようとするものといえます。
しかし、日本の賃金制度は、年齢、勤続、学歴、性別といった属人的要素、つまり年功によって決められる賃金体系であり、その年功は、終身雇用制のもとで、生計費負担と職務遂行能力を共通にカバーする手法として運用されてきています。
そして、この雇用と賃金に関する雇用慣行は、家族を含めた生活費を男子社員に支払うというシングルィンヵムシステムを確立してきたのです。
そのため、主婦層を中心とするパートタイマーの賃金は、あくまでもシングルィンヵムシステムを補うための生活補助給であると位置づけられています。
このように考えると、IOを中心とした世界各国とは、まったく別個に賃金問題を考える必要があります。
とくにスウェーデンのようなダブルインカムシステムの国と同列に議論されるべきではないと考えられます。
この同一労働・同一賃金の原則に関し、平成八年三月の裁判例は、女性正社員と女性臨時社員の賃金格差について、これまで説明してきた実定法上の解釈からその適用を否定しながらも、「同一(価値)労働、同一賃金の原則基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において、一つの重要な判断要素として考慮されるべきものであって、その理念に反する賃金格差は、使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗違反の違法を招来する場合があるというべきである」とし、女性正社員と女性臨時社員の労働内容が同一で、勤続年数もほぼ同一であるなどの事情がある場合、本件においては、女性臨時社員の賃金が女性正社員のそれの八割以下になるときは、使用者の賃金決定の裁量の限度を超え、公序良俗違反として違法になるとしました。
この事案は、男女差別事件であったのですが、その点の違法性は否定したうえ、同一労働・同一賃金の原則を賃金格差の違法性の判断において爵酌するという手法をとり、事実上、雇用形態の差による、そしてその影に隠れた男女差別的取扱いによる不合理な賃金設定に警鐘を鳴らしたものといえます。
しかし、この裁判例で出された、「八割以下の賃金設定は違法になる」という基準設定は、係争事例に限定されてはいますが、契約自由の原則から考えると、決して許容されないものであるといえます。
この訴訟は、東京高裁に控訴されていますので、その判決の動向を慎重に見守る必要があり、即この判決内容を実務の参考基準にすべきではないと考えます。
このように、同一労働・同一賃金の原則は、一般的には適用されませんが、労務管理上の面から、そして期間更新後の契約解消時の解雇権濫用の法理の類推適用の面からも、日本の雇用慣行を踏まえたうえで、期間雇用者やパートタイマーの労働条件をいかに合理的に設定するかどのような雇用形態で労働者を採用するか、またどのような労働者を選定するかは使用者の自由です。
すなわち、採用の自由の世界です。
採用の自由とは、契約締結の自由を使用者から見た側面といえます。
しかし、採用した結果、労務管理がスムーズにいくか、また労働契約解消を使用者が自由に実施することができるかということについては、採用の自由だけの問題で解決することはできません。
やはり、使用者と労働者の労働契約の内容に合理性があり、また契約の履行過程においても合理性があってこそ、労使の信頼関係にもとづく労務問題の処理が可能になるといえます。
たとえば、正社員として雇用されることを希望する労働者を期間雇用者として雇用し、賃金も低く抑え、更新を重ねたうえで、都合のよい時期に更新を拒絶するというのではトラブルが起きる可能性が高くなるのは目にふえています。
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